突っ込みどころ満載の労災裁判-3

チョコレート製造販売会社で直販店の店舗管理、在庫管理などを担当していた若手社員が、過重労働によりうつ病にかかり平成23年12月28日に自殺してしまったことについて、ご両親が原告となって会社の責任を争った裁判で、被告(会社)がどのように反論していたかについて見ていきたいと思います。

被告の主張の続きを見ていきましょう。前回同様、カッコ内のページ数は、上記の判決文PDFのページ番号です。

  1. 「被告Cは、D(亡くなった社員)がコールセンターのマネージャーに昇格してからは管理監督者であるという認識でいたため、労働時間の管理を行っていないし、被告Eも同様である。」9ページ目上段イ-(ア)

     管理職には残業代が出ないので、1ヵ月間に何時間働いたかを管理する必要がない、というのが会社の言い分です。残業代が出る社員については、残業代を計算するためにも労働時間の管理が必要になります。そして、残業時間が多い(たとえば、1ヵ月100時間以上など)ということがわかれば、会社も社員の健康管理上、業務量の調整など必要な配慮をしなければなりません。でも管理職には残業代が発生しないから、労働時間の管理はしていなかった。だから、そんなに長時間働いていたことは知らなかったから、社員Dの自殺については会社は予見できなかったし、責任もない。

     これは典型的な責任逃れの言い分ですね。 (続きを読む…)

突っ込みどころ満載の労災裁判-2

 チョコレートの販売会社で直販店の店舗管理、在庫管理などを担当していた若手社員が、過重労働によりうつ病にかかり平成23年12月28日に自殺してしまったことについて、会社の責任を争った裁判で、被告(会社)がどのように反論していたかについて見ていきたいと思います。
 一般的に原告が主張していることがすべて真実で常に正しいとは限らないので、被告の反論にも耳を傾けておく必要があります。

 それでは被告の主張を見ていきましょう。前回同様、ページ数は、判決文PDFのページ番号です。
  1. 「被告Cが加入していた労災保険を利用できるように配慮した結果である」8ページ目中段ア-(ア)
    これだけでは何を言っているのかわかりませんね。状況を整理しましょう。
    亡くなった社員は、被告Cの社員でしたが、死亡当時は、被告Eという子会社に在籍出向していました。被告Eはチョコレートの販売会社です。
    出向社員が被災して労災給付の申請をするときに、出向先(被告E)の労災保険を使うのか、出向元(被告C)のを使うのかは、その出向社員がどちらの会社の指揮命令を受けて働いていたか、給料はどちらの会社から払われていたなどによって決まります。

    原告(亡くなった社員のご両親)は主張の中で、出向元の労災保険を使って給付が出ているのだから、息子がうつ病になって自殺してしまうほど過重労働させたのは出向元にも責任がある。したがって、出向元にも損害賠償請求すると主張しているのに対し、出向元は、この社員は子会社に出向した社員であって、出向先の指揮命令に従って働いていたのだから、社員が自殺したことについては、出向元には責任はないと反論しています。

    あれっ?出向先の指揮命令を受けて働いていたのなら、出向先の労災保険を使うべきだったのではないか?と突っ込みたくなりませんか? (続きを読む…)

突っ込みどころ満載の労災裁判-1

 平成28年3月16日に東京地裁で出た労災死亡事故に関連して会社が被告となった裁判の判決文を読んでいます。この裁判は、チョコレート製造販売会社で直販店の店舗管理、在庫管理などを担当していた若手社員が、過重労働によりうつ病にかかり平成23年12月28日に自殺してしまったことについて、会社の責任を争った裁判でした。死亡直前2ヵ月の残業時間は172時間と186時間でした。この会社の所定労働時間は162時間ということですから、この2ヵ月間は、2倍働いていたことになります。それ以前も100時間を越える残業をしていたとのことです。まことに痛ましい事件です。
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