あっせんは、「申請する」といいますが、申請書の提出先は、各都道府県にある労働局というところです。あっせんについての相談は、各地の労働基準監督署内にある総合労働相談センターでも応じてくれますが、いざ、あっせんを申請するとなると、労働局へ行って下さい、となります。
申請書の書き方はこのページの下でご説明していますが、その前に、あっせんを申請するということはどういう事なのか、ご説明します。(もうわかっているという方は読み飛ばして、書き方についての説明をご覧下さい。)
あっせんは、他の紛争解決手段同様、あっせん委員という、紛争当事者ではない第三者に、申請人としての権利の主張をして、それを確保するために、紛争当事者である相手方との間を取り持ってもらうということなので、申請人である自分は相手方に何を求めるのかをはっきりと表明しなければなりません。まず何を相手に求めているのかをはっきりと具体的に書きます。 紛争に至った事情とか相手方の批判とかは、あとで説明すればよいのです。
もしあなたが、喧嘩をしている2人の仲裁に入ったとします。まず、『どうしたの?何が原因で喧嘩しているの?』と聞くでしょう。
その時、双方共に、相手の悪口ばかり言っていたら、問題解決の糸口が見つかりませんね。例は悪いですが、あっせんも社員と会社との間の紛争を解決する手段なので、なにが原因で、何をどうして欲しいのかを明確にする必要があります。
さて、申請書をいよいよ書くときに、その書き方について注意しなくてはならないことがあります。
例えば、解雇の問題では、解雇された申請人としては、「解雇は無効なので、まだ会社に籍があるはずだから、社員としての地位の確認をして、今日までの未払いの給料を払ってほしい。」という主張をします。ここで大事なのは『社員としての地位の確認』という表現です。自分はまだ社員なのだという主張と、これに基づく給料を払ってもらう権利を主張するわけです。解雇を通告されたあと会社に出勤していなくても構いません。ただし、支払えと言えるのは基本給と通勤費以外の毎月固定の諸手当程度で、残業代や休日勤務手当は通常は無理です。
単に解雇を無効にして欲しいと主張しても、「じゃあ、解雇が無効になったらそのあとはどうしたいの?」と言われてしまいます。
「もう自分としてはこんな会社に戻る気はないので、解雇無効にしてもらって、お金で解決したい。」という希望があっても、あっせんの申請は、権利の主張なので、上記のような言い回しにならざるを得ません。ちょっと難しく思われるかも知れませんが、労働審判でも裁判でも、同じように申し立てします。
そして、ここがあっせんの特徴ですが、そのあとに、復職が無理ならお金で解決しても良いという譲歩案を出しても良いのです。厚生労働省が出しているあっせん申請書の書き方サンプルを見ますと、おおよそ似たようなことが書かれています。もちろんあくまでも復職を求めても良いのですが、相手方がそれではあっせんに参加しないと言ってきてしまう場合も想定され、そうなると解決の糸口がつかめなくなってしまいますので、よほどの事情がない限りは譲歩案を出す方が良いと思います。申請人側としては絶対相手が100%悪いと思っていることがほとんどですが、相手方にも言い分や解決案について主張できるわけなので、お互いに話し合いで事を納めましょうという、あっせんの趣旨からすれば、譲歩できるところは譲歩しましょう。これは、労働審判に行っても同じことです。
でもこのサンプルはあまりに簡単すぎて、実際にこれだけで済むとは到底考えられません。私が、ご用命をいただいて申請書を作成し、証拠となる書類をそろえて提出するときには、紛争の内容にもよりますが、大体10枚から30枚程度になります。
あっせん申請書を当事者本人が書くということはなかなか難しいときがあります。特に、相手方の仕打ちに対して怒り心頭に発しているとき、あるいはひどく落ち込んでしまっているときなどは、冷静になって、事実を整理して、権利の主張をするということができません。
そのようなときは、心情を誰かに聞いてもらって、少し落ち着いてから書くということをお勧めします。
あっせんの申請そのものは、口頭でも受け付けてくれます。この時は、労働局の方が、申請者の言い分を聞いて、文章にまとめてくれます。私も、ある時、請書を提出に行ったときに、別のブースで口頭で申し立てをしている方がいらっしゃいました。大きな声で(ほとんど怒鳴って)話をされていましたので、内容まで聞こえてしまいました。かなり怒っていらしたのでしょうか、ご自分の感情の方が先に立ってしまっていて、署員が、申請書の形式にまとめるのに苦労されていました。
あるいは、私共特定社会保険労務士に相談する方法もあります。相談料を含めて有料となりますが、申請書を書いてもらうだけでなく様々なアドバイスがもらえたり、代理人契約を結べば、あっせん申請後の相手方との交渉やあっせん当日に自分の代わりに代理出席してもらえるなど、いろいろなメリットがあります。困ったときはお気軽に相談して下さい。