扱う労働局によって、対応に違いがあるようですが、神奈川県の場合は、あっせん申請書が労働局に受理されると、労働局の担当官が要約した趣旨がかかれたものが、あっせん開始通知書と一緒に相手方(紛争のもう一方の当事者、ここでは会社とします)に送られます。
申請書に添付した資料や陳述書も送られないことが多いようです。但し、必ずいつも送らないのかというとそうでもありません。送る場合は必ず申立人の了解を取って送るようにしているようです。私の経験では、担当官がそれとなく送った方が良いというニュアンスのことを言ってきたので、それに従ったことがありました。
こちらの手の内を全部相手方に見せてしまうのは何となく不利になるような気がするものですが、相手方に、こちらの主張とその根拠を事前に理解してもらう事は、早期解決への一助となりますので、これを逆手にとって、申請書は初めから相手方に読ませるという意図を持って書くのも、一つの手法です。労働審判の場合は、必ず相手方に全部の資料が送られます。労働審判申請の時にその分のコピーを持ってくるように言われますから、労働審判の場合は選択の余地がありません。
あっせんは、1回の会合で話をまとめましょう、という趣旨の元で運営されていますから、相手方の出方を見ながら証拠や情報を小出しに出していくという手法が取れません。言葉は不適切かも知れませんが、一発勝負なので、言いたいことは全部一度に言っておくという姿勢が求められます。
この、相手に読ませるということは、どういう効果を狙うかと言えば、まず、あっせんに参加してもらうことにつきます。
あっせんへの参加は、強制ではないので、相手方が、「参加しない」と言ってしまえば、そこで打ち切りとなってしまいます。
申し立て側としては、有識者であるあっせん委員に仲介してもらって、一日も早く何らかの解決を望んでいるわけですから、相手方に出てきてもらうことが解決への必須条件です。
そこで、たとえば、解雇無効を主張するあっせん申立書であっても、それだけを書くのではなく、法律違反の事実があればそれも一緒に書くということも一考です。
たとえば、採用時に労働条件の書面による明示がなかったとか、雇用保険の資格喪失(離職票の発行)手続きを解雇日以降10日以内に行っていない等です。
これらは直接解雇事件の解決には影響しなさそうですが、相手方にとっては、法律違反をしていると累々とかき立てられてしまっては,反論しないわけにはいきません。
また、もしあっせんに不参加を決定しても、強制力のある労働審判や簡易裁判所への提訴などがなされれば、自社の立場は相当不利になることが明らかなので、あっせんで解決しようという気持ちが強くなることが期待できます。
それでもあっせん不参加を表明する会社はあります。これは制度がそうなっているので仕方がありません。しかし、ここであきらめないで、解決を求めるのであれば、別の手段に速やかに移行する事を考え行動に移しましょう。
あっせんの場合、相手方は、反論書(自分たちの主張、反論)を出しても良いし、出さなくても構いません。また、提出したとしても、申し立て側が読むことはできません。あっせんが成立して事件が解決したあとでも、相手方の答弁書を読むことはできません。たとえ読めたところで、自分にとって腹の立つことしか書いてないから却って読まない方がよい、という声もあります。
ただ、もし、自分が忘れてしまっているようなことでそれが自分に不利になることが書いてある場合には、あっせんの期日で確認を求められますから、 その時にびっくりしないように、できるだけ過去のことは良いことも悪いことも思い出しておく事が大切です。
私の経験で、あっせんの当日に、社員の遅刻の回数でもめたことがありました。双方の言い分が食い違ったのです。
申し立て側(私の方)では半年間の遅刻回数が2回あったことは認めていたのですが、相手方が3回遅刻していると言ってきました。
この時は、採用前の研修の時に、どうしてもスケジュールが合わなくて、事前に会社の了解を取って1時間遅刻したということが、申立人から説明され、相手方もこれを認めたので遅刻は2回ということになりました。相手方にも勘違いや解釈の違いということがありますから、これは大丈夫だろうと思わずに、出来るだけたくさんのことを思い出しておくことが大切です。