減給には就業規則の規定が必要

平成28年3月に東京地裁で出た判決から、給与減額の妥当性について考えてみます。

 この裁判は、そのほかにもサービス残業代を請求したり、パワハラ被害について損害賠償したりと、日本で頻繁に起きている職場のトラブルが何種類も出てきます。
このうち、サービス残業代の請求については別のブログで取り上げます。

 この裁判の判決文は最高裁判所のサイトには載っていないのですが、私は神奈川県立図書館で利用できる、第一法規法情報総合データベース(D-1Law)で見つけて読みました。この判例検索システムは、よく利用させてもらっています。

 この裁判で、原告(退職した労働者)は、8回も給与減額の処分を受けていて、部長代理に昇格したときに上がった月給58万円から最終的に35万円まで下げられています。被告(会社)の言い分は、懲戒処分として行われたもので、就業規則に基づいて行われたものだ、ということです。
ちなみにこの原告社員は昭和52年4月に入社し、勤続30年目の平成19年1月頃技術部の部長代理に昇格しています。 (続きを読む…)

突っ込みどころ満載の労災裁判-6

 チョコレートの販売会社で直販店の店舗管理、在庫管理などを担当していた若手社員が、過重労働によりうつ病にかかり自殺してしまったのですが、死亡直前2ヵ月の残業時間は172時間と186時間でした。この痛ましい事件に対してご両親が原告となって会社や社長らに損害賠償を請求する訴えを起こしました。その判決文を読んで、被告会社が主張(反論)した内容について突っ込みを入れてきましたが、この裁判の結果をお知らせしていませんでした。ただし、あくまでも第1審(東京地裁)の判決です。

 結果は原告の勝訴で、この判決で確定しています。 (続きを読む…)

突っ込みどころ満載の労災裁判-5

 チョコレートの販売会社で直販店の店舗管理、在庫管理などを担当していた若手社員が、過重労働によりうつ病にかかり自殺してしまったのですが、死亡直前2ヵ月の残業時間は172時間と186時間でした。この痛ましい事件に対してご両親が原告となって会社や社長らに損害賠償を請求する訴えを起こしました。その判決文を読んで、被告会社が主張(反論)した内容について突っ込みを入れてきましたが、今回が最終回で、過失相殺のことについてです。

 それでは見ていきましょう。

  1.  「D(死亡した社員)のミスについては、被害者の過失として斟酌されるべきである。」(被告らの主張)ウ

     この裁判は、原告が被告らに、損害を金銭によって賠償しろと訴えている事件なので、被告は、賠償金額を少しでも減らしたいと(できれば全く払わずに済ませたい)いろいろと主張(反論)しているわけです。 (続きを読む…)

突っ込みどころ満載の労災裁判-4

チョコレート製造販売会社で直販店の店舗管理、在庫管理などを担当していた若手社員が、過重労働によりうつ病にかかり平成23年12月28日に自殺してしまったことについて、ご両親が原告となって会社の責任を争った裁判で、被告(会社)がどのように反論していたかについて見ていきたいと思います。
前回に引き続いてさらに被告の主張の続きを見たいと思います。前回同様、ページ数は、判決文PDFのページ番号です。

  1. 「コールセンター時代の残業は、Dが業務上の必要がないのに自らの意思で担当業務とは別の業務を手伝っていたので、被告Cは残業を抑制するよう注意指導していた。」9ページ目下段イ-(ウ

     これも会社がよく使う弁明の手法です。つまり、社員が本来ならやらなくてよい仕事を勝手にしていたのだから、これは仕事ではないのでその時間に対する賃金(通常は残業代)は払わない、というものです。確かに、そう言われればそのとおりかもしれないと思ってしまいますが、そんなに簡単なことではありません。
     時代遅れの考え方だとご指摘を受けそうですが、労働基準法の中では、働くということは会社の指揮命令を受けてその仕事をこなすことと考えられています。これは、昔の工場の生産ラインで働く人を想定しているといわれていて、決められた仕事を決められた時間こなすことで給料がもらえるということでした。残業も、会社が「今日は1時間残業」と命令してそれにその生産ラインの全員が従って残業したわけです。私も今から40年ほど前、夏休みに電気製品の生産工場でバイトしたことがありますが、残業は上司が決めていました。そのときは、私にも「今日は1時間残ってくれ。いいね?」といわれたのを思い出しました。労基法の中では労働に対する給料の支払い基準は労働時間が基本となっているのです。これが一番客観的で不公平がないからです。

     そうすると、「会社は残業を命令していない。勝手に残っていたのだから残業代の支払い義務はない。」とか、この被告会社のように、「業務上の必要がないのに自らの意思で別の仕事をしていた」という言い分が出てくるわけです。 (続きを読む…)