ウチはみなし労働時間制

みなし

「ウチの会社はみなし労働時間制だから残業代はないよ」
といわれて、そうなのか、と納得させられてしまった、といったことありませんでしたか?

「みなし」が何を指すのかにもよりますが、もしこれが「事業場外労働に関するみなし労働時間制」のことだとしたら、自分はこれに当てはまるのかよく確認する必要があります。

実は労働基準法38条の2で、社外(事業場外のこと)で働いていて、上司や会社が労働時間を正確にわからないという場合には、一定時間働いたことにしても良いと決めています。ただし、これは昔の通信環境や労働時間管理での働き方を想定していますから、現在ではこの説明だけでは不十分です。
今から30年ほど前までは、安価で手軽に使える携帯電話もなく、外出した社員と連絡を取りたいときにはポケベル(知らない方も多いでしょうが、会社に電話をするように知らせるショートメールのようなもの)程度しかなかった時代には、社員が、外出して会社に戻らずに帰宅してしまうと何時まで働いたのか確認が取れないということがありました。自己申告をそのまま鵜呑みにするわけにも行かなかったようです。
特に、外回りの営業職や修理補修担当の方々は、朝会社に来て前日のことを報告したら、また、外出してそのまま帰宅するということが頻繁に行われていました。
こうしたときに、会社としては何時まで働いていたのか客観的な資料による確認ができないので、外出先から早く家に帰ったときも、遅くまで働いたときも、1日8時間働いたことにして給料の計算をしても良いということになっているのです。普段の仕事の量から見て、この業務なら1日10時間かかるとすれば、その通りに1日10時間(つまり毎日残業2時間したとみなす)と決めても良いのです。

つまり、1日8時間働いたと「みなし」て給料を払うというシステムです。もし10時間と「みなし」たら、1日2時間分の残業代も払われます。
この法律は今でも有効ですが、携帯電話が大変に普及している現代では、会社から外出中の社員に連絡は随時できますし、外出先で携帯端末からグループウエアに終業時刻を入力させることもできますから、何時まで働いたのかの確認は簡単にできます。そうした意味ではこの「事業場外労働のみなし労働時間制」が当てはまるケースは、海外旅行のツアーコンダクター、在宅勤務などの特殊な場合しかありません。一般的な働き方で、社外で仕事をしたとしても事業場外のみなし労働に当てはまるケースはごくまれだといえます。

「みなし」とならない場合には、もっとローテクな状況もあります。
たとえば、課長と部下である自分とで外回りの営業に行った。課長とともに夜9時まで働いて、直帰した。
このような場合には、労働時間を管理することができる上司が最後まで一緒にいたので、夜9時までが労働時間なりますから、「みなし」にはなりません。
あるいは、外出先から会社に戻って仕事をしてから帰る場合には、行きは直行したとしてもみなし労働は当てはまりません。通常は、始業時刻から退社時刻までがその日の労働時間となります。

あくまでも事業場外ですから、内勤の社員には絶対に当てはまりません。

休業手当と休業補償は違います

休業手当と休業補償は混同されがちですが、違うものです。
何が違うかというと、その支払いの原因となった出来事です。
休業手当は、会社の都合で(帰責事由)会社が休みになって、社員が働く意思があっても働くことができなかったときは、会社は平均賃金の6割以上をその社員に払うというものです。これは労働基準法26条で決まっていて、会社に対して強制していますから、もし払わなければ、30万円以下の罰金が科せられます。(労基法120条1項)ただし、所定の出勤日が対象となりますので、所定休日(公休日)については支給の対象外です。
以前のブログでも、昨今世の中を騒がせている自動車の工場が一部休業するので一時帰休対象の社員には休業手当を払うことで組合と交渉中とお伝えしています。

休業補償は、労災がらみで出てくる言葉です。
こちらは労働基準法76条で決まっていて、業務災害によるけがや病気の治療のために働くことができなかった日について、会社が平均賃金の6割を補償する義務があるという決まりです。6割以上ではなく6割と決まっているところも休業手当とは違う点です。この休業補償は、労務不能の日で給料が出ない日(いわゆる欠勤日)が支給対象ですから、会社の所定休日でも支給されます。

業務災害というのは、仕事中に仕事が原因でケガしたり病気にかかった、ということです。これと対になる言葉として通勤災害がありますがこちらは通勤途中でケガしたり病気になったことを指します。

普通、会社は労災保険に入っていますから、治療費や所得補償などの給付は労災から出るので会社の持ち出しはなさそうですが、社員が欠勤した最初の3日間分は、労災保険から休業補償給付が出ないので、会社が休業補償を払わなければならないのです。こちらは違反すると6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。(労基法119条)

6割では足りないというときは、休業補償を受けないで、有給休暇を取ることもできます。

万一、会社が労災保険に入っていないときで、「うちの会社は労災に入っていないから、健康保険で直して」などと言われても、健康保険は使えません。この場合には、ケガや病気が治るまでは、会社が治療費も、休業補償も全額払うことになります。(労働基準法第8章災害補償)

労災保険は民間の損害保険と違って、労災事故が起きた後からでも加入できますので、会社に「今からでもいいから労災保険に入って、私が補償を受けられるようにしてほしい。」と言って構いません。会社も治療費など全額を負担することを考えたら、事故が起きたあとからでも入れるなら労災保険に入ったほうが絶対よいはずです。

労災事故に用けがや病気に対しては労災保険が手厚い補償をしてはくれますが、結局はかかった費用の実費を補填してくれるだけです。痛かったり苦しかったりしたときの苦痛に対する補償はしてくれません。また、大きなけがや重篤な病気の場合には復職できるかどうかも不安です。労災事故に遭わないように普段から安全衛生には十分気をつけて、事故に遭わないように注意しましょう。

休業手当は6割?8割?

先日来、自動車の燃費データ改ざん問題で、工場が休業状態となっていて社員が自宅待機となっている会社があります。
この社員には、自宅待機中も給料が払われるのでしょうか?
結論から言えば払われます。ただし全額とまではいかないようです。

先日新聞各社も報道していましたが、会社は、休業手当として平均賃金の8割支給を労働組合に提示したそうです。

休業手当とはいったい何のことか?と思われた方はこちらをご覧ください。そのページの後半部分でご説明しています。
かいつまんでいうと、会社側の事情や都合で働くことができなかった日については、社員は会社休業で働けなかった日についても賃金を請求できるということと、労働基準法という法律で、そうした会社都合の休業の日については強制的に会社に平均賃金の6割以上を払わせることができるというきまりがあるということです。

労基法26条(休業手当)では平均賃金の6割以上を支払わなければならないとなっていますから、会社と社員が合意すれば8割以上ならいくら払っても良いことになります。会社によっては、就業規則の中であらかじめ全額払うと決めているところもあります。なお、休業補償と混同しないようにして下さい。こちらは労災保険関連に出てくる用語です。
そこで、この自動車会社は、今回の工場の休業について、はじめから8割支給を提示したということです。交渉しだいで、どうなるかはわかりませんが、工場の休業についてはそこで車を作っている社員には直接責任はないのですから、賃金の100%を補償してもぜんぜんおかしい話ではないようにも思います。ただ、会社も経営危機が叫ばれているので、どこかで折り合いをつけて合意しましょうということで組合との話し合いが持たれているのだと思います。

労働基準法は、このように、働く人の生活を守るために、たとえ会社が営業できない日でも、その原因が会社にあるのなら、強制的に会社に賃金(休業手当)を払わせるという決まりがあります。

会社の経営者の中には、このことを知らない人がかなり多くいることも事実です。会社を休業するようなところは普通は経営が苦しいところが多いでしょうから、経営者は、「休業手当?仕事してない日なんだからそんなの払う必要ないでしょ?」といって逃れようとするかもしれません。そのようなことが起こらないように、働く我々も、法律で決まっていることを知って、正当な権利の主張をしましょう。

パートタイマーの社会保険加入

今年(H28)10月から、パートタイマー(短時間労働者)の社会保険加入の基準が広がります。
今まで社会保険に入っていなかった方でも、10月以降は社会保険に加入することになるかもしれません。

では、誰が加入して誰が加入しないのでしょうか?その基準は何か?
以下にご説明します。
社会保険に加入することになる人は下の条件を全部満たす人です。:
1. 1週間に20時間以上働く
2. 月給が88,000円以上(年収なら106万円以上)ある
3. 1年以上その会社で働く見込みがある
4. 学生ではない
5. 会社が従業員501人以上の規模である
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