チョコレート製造販売会社で直販店の店舗管理、在庫管理などを担当していた若手社員が、過重労働によりうつ病にかかり平成23年12月28日に自殺してしまったことについて、ご両親が原告となって会社の責任を争った裁判で、被告(会社)がどのように反論していたかについて見ていきたいと思います。
被告の主張の続きを見ていきましょう。前回同様、カッコ内のページ数は、上記の判決文PDFのページ番号です。
最高裁判所のサイトから判決文が削除されているようです。ほかの判例検索サービス(LexisやWestlawやD-1)には掲載があるかもしれません(H29/11/18現在 Westlawにはありました)。
検索する場合には下記の裁判データをキーワードにすると見つけやすいと思います。
裁判年月日 平成28年3月16日 裁判所名 東京地方裁判所 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)1985号・平26(ワ)22614号
事件名 損害賠償請求事件
上訴等 確定
また、こちらのサイトにも全文が載っています。
被告の主張の続きを見ていきましょう
- 「被告Cは、D(亡くなった社員)がコールセンターのマネージャーに昇格してからは管理監督者であるという認識でいたため、労働時間の管理を行っていないし、被告Eも同様である。」
9ページ目上段イ-(ア)
管理職には残業代が出ないので、1ヵ月間に何時間働いたかを管理する必要がない、というのが会社の言い分です。残業代が出る社員については、残業代を計算するためにも労働時間の管理が必要になります。そして、残業時間が多い(たとえば、1ヵ月100時間以上など)ということがわかれば、会社も社員の健康管理上、業務量の調整など必要な配慮をしなければなりません。でも管理職には残業代が発生しないから、労働時間の管理はしていなかった。だから、そんなに長時間働いていたことは知らなかったから、社員Dの自殺については会社は予見できなかったし、責任もない。
これは典型的な責任逃れの言い分ですね。
管理職といっても生身の人間ですから、管理職に昇格したとたんに1ヵ月100時間以上残業しても心身に影響が出ないなどということはありません。むしろ、責任や業務量が増えてストレスは増すばかりだと思いますから長時間労働が心身に悪影響をおよぼすことは確かです。
残業代の支払いがない管理職にも、会社には社員の安全や健康に配慮する義務があるので、最低限の義務として労働時間管理はしておかなければなりません。別の視点から見れば、深夜労働(夜10時から翌朝5時までの時間帯の勤務)に対する25%以上の深夜割増手当は管理職でも発生しますので、その意味からも管理職については労働時間管理をしていないなどと正面切って言えるわけがありません。
深夜割増手当が管理職にも出るという根拠は、労基法41条の本文によります。ここには、「労働時間、休憩および休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」と書かれているので、深夜割増については割増賃金が出るということになるからです。ちなみに、深夜割増そのもののことは労基法37条4項に書かれています。今回の裁判では未払いの深夜割増手当は請求していたのでしょうか?どうも判決文には記述がないようなのですが、深夜勤務時間が確定できなかったのでしょうか?
ここで、大きな争点として出てくるのが、社員Dは残業代が出ない管理職だったのかどうかということです。上の会社の反論に出てくる管理監督者という言葉は、労働基準法41条2号に出てくる「監督若しくは管理の地位にある者」が縮まった用語ですが、世間では管理職のことだととらえられています。
マクドナルドの店長が管理監督者かどうか争われた有名な裁判以降、名ばかり管理職との呼び名が定着し、管理監督者でもないのに、肩書きだけ課長や店長になって勤務実態はスタッフと変わらないのに、給料面では残業代が出ないのはおかしいということになりました。今回のこの裁判でも、原告は、サービス残業していたから未払いの時間外手当を請求するといっています。つまり名ばかり管理職かどうかは、勤務実態を証拠で示して、最終的には裁判所の判断にゆだねられることになります。
この判決文から時系列で見た限りでは、この社員Dは入社2年目でマネージャーに昇進しています。そこからは管理監督者として残業代が出ていないようです。20代前半の新入社員が2年目で管理職ですか?そのようなことがあってもいいですが、普通あまり考えられないことです。あくまでも私見ですが、このようなことから見ても名ばかり管理職の可能性があるとも思います。
時系列で事件がどのように進んでいったかを見ておくと、判決文を読むときに理解しやすくなります。判決文から年月日を拾ってみます。
平成13年 被告Cでアルバイトをした
平成16年5月 Cに正社員として採用されコールセンター配属(満24歳)
平成17年 マネージャーに昇進し、コールセンター立ち上げ
平成22年11月 マニュアル整備業務に異動
平成23年3月 震災対策コールセンターマネージャー
平成23年10月 被告E(チョコレート販売会社)に出向
平成23年12月28日 死亡(享年31歳)
最高裁判所のサイトから判決文が削除されているようです。ほかの判例検索サービス(LexisやWestlawやD-1)には掲載があるかもしれません(H29/11/18現在 Westlawにはありました)。
検索する場合には下記の裁判データをキーワードにすると見つけやすいと思います。
裁判年月日 平成28年3月16日 裁判所名 東京地方裁判所 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)1985号・平26(ワ)22614号
事件名 損害賠償請求事件
上訴等 確定
また、こちらのサイトにも全文が載っています。