「はい、山本事務所でございます。」
「あの~、すいません、教えてほしいんですけど。。。」
「はい、どのようなことでしょうか?」
「労災で休んでいる間は、会社は解雇できないんですよね?」
「仕事中に仕事が原因で、事故でけがしたり、病気になって、治療している期間と治ったあとの30日間は解雇はできないことになっています。どうしたのですか?」
「自分、トラックの運転手なんですけど、ついこの間、停まっている自分のトラックが、後ろから来た別のトラックにぶつけられて、今、治療中で会社も休んでいるんですけど、会社から解雇通知とかいう書類が来て、要はクビらしいんです。おかしいでしょ?これって!」
もし、この方の言うとおりなら、絶対におかしいです。というか、100%労基法律違反です。労災事故による治療期間中とその後の30日間は解雇できないこ と(労基法19条の解雇制限)は、かなり世の中に知られた法律です。会社が解雇通知書まで送ってきて、解雇すると言うからには、何か大きな勘違いをしてい るのか、労基法を全く無視している(または知らない)のか、そういう意味でもなにかおかしい事件です。
とりあえず、詳しくお話しを聞きましょうということになり、翌日、その方が事務所に来られました。まだ、首や背中が痛むのか、ちょっとした動作も痛々しく、かなりひどい事故だったのだなと、思わせます。
「昨日電話した、町田という者です。よろしくお願いします。あれから、何件か先生みたいな社労士さんに電話してみたのですが、みんなやっぱりそれは法律違反だと言ってました。今日、例の解雇通知書を持ってきました。これです。」
「町田さんですね。けがの状態はひどいようですね。痛みますか?解雇通知書拝見します。」
そこには、『当社は、下記の理由により、あなたを ○月○○日をもって解雇いたします。』と書いてあり、その理由は『解雇理由:就業規則第○○条による』と書かれています。解雇の日は、通知書の日付から 30日後となっていますので、解雇予告の手続きとしては間違っていません。就業規則もあるとのことなので(周知されているかどうかは別として)会社として は正規な手続きを踏んでいるとの認識があるようです。どうしてこのような事になっているのでしょうか?ちょっと想像が付きません。
そこで、町田さんから事故の様子を詳しく伺うことにしました。
それをまとめると、
1.商品配送途上の信号待ちで、停車していた。
2.自分の前には、自分のトラックよりも大きなトラックが停まっていた。
3.突然、自分の後ろから大型トラックが追突し、自分は前のトラックとの間に挟まれた。
4.自分は、背中を強打し、首もむち打ち状態となり、気を失った。
5.救急車で病院に運ばれ応急処置は受けたが、2日で退院。
6.その後は経過観察とリハビリの毎日。回復には3週間は必要とのこと。
7.治療費その他は加害者のトラックの任意保険が払ってくれている(過失相殺はゼロ)。
8.会社へは事故の報告をしたあとは、保険会社に出す休業損害証明書に会社の証明をもらうために書類を送っているが、それ以外は特に連絡していない。会社からも、何の連絡もない。
ここまではっきりしていれば、確かに業務災害です。ですから、やっぱり、治療を続けている今の状態では解雇はできません。例外は、労基法81条で規定して いる、打ち切り補償を払ったときは、解雇できるとなっていますが、そもそも打ち切り補償を払うことができるのは治療開始から3年たった時点で、まだけがや 病気が治らない場合は、平均賃金の1200日分を打ち切り補償として払えば、解雇制限は無くなるというものです。
今回のケースでは、時間的にも(3年たっていない)、金額的にも、この、うち切り補償の場合に全く当てはまりませんから、例外的な措置は全くありません。
でも、これだけ、堂々と解雇予告通知を送ってくるのだから、私が何かを見落としているかも知れないと心配になって、知り合いの社労士に確認したのですが、例外はやはりありませんでした。(笑い飛ばされたあげく、もっと自信を持てと激励されました)
このようなわけで、この奇怪な事件に取り組むことになりました。
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