チョコレートの販売会社で直販店の店舗管理、在庫管理などを担当していた若手社員が、過重労働によりうつ病にかかり平成23年12月28日に自殺してしまったことについて、会社の責任を争った裁判で、被告(会社)がどのように反論していたかについて見ていきたいと思います。
一般的に原告が主張していることがすべて真実で常に正しいとは限らないので、被告の反論にも耳を傾けておく必要があります。
それでは被告の主張を見ていきましょう。前回同様、ページ数は、判決文PDFのページ番号です。
長文になってしまったので、2つ目以降の突っ込みは次のブログで見ていきます。
最高裁判所のサイトから判決文が削除されているようです。ほかの判例検索サービス(LexisやWestlawやD-1)には掲載があるかもしれません(H29/11/18現在 Westlawにはありました)。
検索する場合には下記の裁判データをキーワードにすると見つけやすいと思います。
裁判年月日 平成28年3月16日 裁判所名 東京地方裁判所 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)1985号・平26(ワ)22614号
事件名 損害賠償請求事件
上訴等 確定
また、こちらのサイトにも全文が載っています。
一般的に原告が主張していることがすべて真実で常に正しいとは限らないので、被告の反論にも耳を傾けておく必要があります。
それでは被告の主張を見ていきましょう。
- 「被告Cが加入していた労災保険を利用できるように配慮した結果である」
8ページ目中段ア-(ア)
これだけでは何を言っているのかわかりませんね。状況を整理しましょう。
亡くなった社員は、被告Cの社員でしたが、死亡当時は、被告Eという子会社に在籍出向していました。被告Eはチョコレートの販売会社です。
出向社員が被災して労災給付の申請をするときに、出向先(被告E)の労災保険を使うのか、出向元(被告C)のを使うのかは、その出向社員がどちらの会社の指揮命令を受けて働いていたか、給料はどちらの会社から払われていたなどによって決まります。
原告(亡くなった社員のご両親)は主張の中で、出向元の労災保険を使って給付が出ているのだから、息子がうつ病になって自殺してしまうほど過重労働させたのは出向元にも責任がある。したがって、出向元にも損害賠償請求すると主張しているのに対し、出向元は、この社員は子会社に出向した社員であって、出向先の指揮命令に従って働いていたのだから、社員が自殺したことについては、出向元には責任はないと反論しています。
あれっ?出向先の指揮命令を受けて働いていたのなら、出向先の労災保険を使うべきだったのではないか?と突っ込みたくなりませんか?
後のほうで出てくるのですが、判決文(16ページ中段)によると、出向先(被告E)は労働保険(労災保険と雇用保険)に加入していなかったようなのです。出向先の会社には親会社からの出向社員しかいないから、労働保険に加入する必要がなかったというのがその理由のようですが、そうであれば、出向社員への指揮命令は出向元から出ていたのですか?上の主張と矛盾していませんか?とさらに突っ込みたくなります。
これでやっと「会社が配慮した結果である」の意味がわかりました。
ようするに、出向先では労災保険に入っていないから、出向元の労災保険を使うことにしたわけですね。
そのためには「出向先の会社が出向元の一部門であるかのようなことを労基署に申告するという便宜を図ってやったのだ。」と言っているわけですね。でも裁判になって、責任を追及されたら、「いやそれは違います。当社に責任はございません。」では、原告は納得しないのではないでしょうか?私も納得できません。
実は、会社が労災保険に加入していなくても、通勤途中や業務上の理由でけがをしたり病気になった社員への労災給付は、出るのです。その代わり、会社に対してはペナルティーが科せられるので、通常の労働保険料とは別に被災労働者の治療などにかかった給付額100%かまたは40%を払うことになります。
もし労災事故にあったのに、会社から「ウチは、労災に入っていないから、健康保険でやってくれ」とか、「自費で治してくれ」と言われたら、「事故が起きた後からでも入れるので、すぐに加入手続きしてください」と言ってかまいません。もし健康保険で治療を受けると、あとから調査が来て、労災事故だとわかると、健康保険が負担した7割分の返却を求められます。実務上は労災保険に切り替えることになります。
したがって、出向先も、あとから労災保険に入って、(ペナルティーを取られるかもしれませんが)亡くなった社員の方への労災給付が受けられるようにすれば、出向元も裁判でこのような苦しい言い訳をしなくてもすんだのではないかと思います。
ちなみに、労災給付の申請は、被災した社員本人やその家族、遺族が請求者となります。会社は、労災事故が起きたことの証明として署名押印をするだけです(署名押印しない場合もありますがそれも可です)。ですから、会社が、「これは労災じゃないから申請しません」と言って申請に非協力的であっても、最終的には、被災した社員やその家族が申請用紙に必要事項を書いて、労基署の労災課に出せば受け付けてくれます。そして、労災事故かどうかを判断するのは労基署です。会社ではありません。
もうひとつ大事なことがありますので覚えておいてください。会社が労災保険に加入はしているのだけれど、使わせてくれないという場合です。業務上の理由による労災事故が起きたことを公にしたくないといった場合が想定できるのですがまれにこうしたことも発生します。(いわゆる労災かくしとも呼ばれます)
被災した労働者が自分で労災申請すればよいわけですが、なかなかそれもできないといったときは、労働基準法(第8章75条~88条)によって会社が全額負担する災害補償という決まりがありますので、これに基づいて会社に治療費、休業補償などを全額を負担してもらうことを要求できます。
もともとはこの労基法の災害補償が先にあって、これでは会社の負担が大変で、被災した労働者がきちんと補償を受けられるかどうかわからないから、労災保険制度を作って、これに会社が加入して保険料だけ払っておけば、補償は全部労災保険から出るという仕組みにしたのです。ですから労災保険は強制加入で、保険料は全額会社が払うことになっています。
長文になってしまったので、2つ目以降の突っ込みは次のブログで見ていきます。
最高裁判所のサイトから判決文が削除されているようです。ほかの判例検索サービス(LexisやWestlawやD-1)には掲載があるかもしれません(H29/11/18現在 Westlawにはありました)。
検索する場合には下記の裁判データをキーワードにすると見つけやすいと思います。
裁判年月日 平成28年3月16日 裁判所名 東京地方裁判所 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)1985号・平26(ワ)22614号
事件名 損害賠償請求事件
上訴等 確定
また、こちらのサイトにも全文が載っています。