平成28年3月に東京地裁で出た判決から、給与減額の妥当性について考えてみます。
この裁判は、そのほかにもサービス残業代を請求したり、パワハラ被害について損害賠償したりと、日本で頻繁に起きている職場のトラブルが何種類も出てきます。
このうち、サービス残業代の請求については別のブログで取り上げます。
この裁判の判決文は最高裁判所のサイトには載っていないのですが、私は神奈川県立図書館で利用できる、第一法規法情報総合データベース(D-1Law)で見つけて読みました。この判例検索システムは、よく利用させてもらっています。
この裁判で、原告(退職した労働者)は、8回も給与減額の処分を受けていて、部長代理に昇格したときに上がった月給58万円から最終的に35万円まで下げられています。被告(会社)の言い分は、懲戒処分として行われたもので、就業規則に基づいて行われたものだ、ということです。
ちなみにこの原告社員は昭和52年4月に入社し、勤続30年目の平成19年1月頃技術部の部長代理に昇格しています。
この懲戒処分が有効かどうかが争われたわけですが、結論から言えば、全部認められずに、給与減額は全部、もとの58万円に戻されたというのがこの判決です。
ではこの8回の減額の中身をみていきましょう。
この減給は懲戒処分として行われました。能力不足とか、目標を達成できなかったからということで給料が減額されました。裁判ではその妥当性が争われましたが、この判決では会社が全面的に負けて、減給は全期間にわたって無効と判断されて、さかのぼって月給58万円との差額を払えと命じています。
ではこの8回の給与減額はどのようなものだったのかみていきましょう。
・1回目:H21年5月 58万円から56万3千円になった。
・2回目:H21年7月 56.3万円から54万7千円
・3回目:H21年9月 54.7万円から54万2千円
・4回目:H21年12月 54.2万円から48万8千円
・5回目:H22年6月 48.8万円から45万8千円
・6回目:H23年3月 45.8万円から43万円
・7回目:H24年2月 43万円から38万円
・8回目:H24年6月 38万円から35万円
被告会社は、これら8回の減給処分の理由は、原告社員が技術力が低く、能力不足であり、顧客との交渉力にも問題があり、改善の意欲がみられず作業の遅延があったからだと主張しています。
このブログを読んでくださっているみなさん、能力不足が懲戒処分(つまり罰)の理由になると思いますか?
この判決文にはこの会社の就業規則に規定されている懲戒規程が掲載されています。それを読んでも、能力不足が懲戒処分の対象となるとは書かれていません。この規定もそうですが、通常は、~したときとなっていて、ある特定の行為を行った時にそれが懲戒処分の対象となると決めています。それが普通です。
ついでにこの会社の懲戒処分にはどのような種類があるのかみておきましょう。
制裁(筆者注:懲戒処分のこと)は、その情状により、けん責(筆者注:厳重注意や叱るといった意味)、減給、出勤停止、懲戒解雇を行うが、上記減給については、1回の減給の額が上記従業員の平均賃金の1日分の半額、総額が上記従業員の1賃金支払期における賃金総額の10分の1の範囲内で行う。と決められています。減給の幅は労基法91条の条文通りですから法律違反はありません。
ところで、1~8回目の減給は、それぞれ1回の懲戒処分なのですから、就業規則の規定により、どんなに高くても平均賃金の1日分の半額までのはずです。平均賃金とは過去3ヵ月間に払われた給料総額を3ヵ月の総日数で割った、1日あたりの平均額ですから、この社員について言えばだ、いたい12,000円~18,000円の範囲内に収まっていなければならないはずです。でも実際には4回目以降は2万円以上も減額処分が行われています。
よしんば1ヵ月に何回もの懲戒処分がされてその合計額が各回の減給の金額となると言うことだったとしても、7回目は43万円から38万円に引き下げられていてその差は5万円ですから、43万円の10%を超えていますね。この会社は自分で作った就業規則を自分でやぶっていることになりますね。このようなことが起きると社員は就業規則(または職場のルール)なんかアテにできないと思うようになります。
そもそも、懲戒処分としての減給は毎月行われても良いのでしょうか?
懲戒処分、つまり罰は1つの事由に対して1回しかできません。同じ過ちに対して何回も罰を加えられたらたまりません。たとえば、技術力不足を理由とする減給処分もそれができたとしても1回限りのはずですが、この会社はその後、改善がみられないと言って何度も同じ理由で減給を繰り返してきたわけです。こんな事はできるはずがありません。
長くなってしまったので、裁判所が、この給与減額処分をどう判断したのかは次回のブログに書きます。
この裁判は、そのほかにもサービス残業代を請求したり、パワハラ被害について損害賠償したりと、日本で頻繁に起きている職場のトラブルが何種類も出てきます。
このうち、サービス残業代の請求については別のブログで取り上げます。
この裁判の判決文は最高裁判所のサイトには載っていないのですが、私は神奈川県立図書館で利用できる、第一法規法情報総合データベース(D-1Law)で見つけて読みました。この判例検索システムは、よく利用させてもらっています。
この裁判で、原告(退職した労働者)は、8回も給与減額の処分を受けていて、部長代理に昇格したときに上がった月給58万円から最終的に35万円まで下げられています。被告(会社)の言い分は、懲戒処分として行われたもので、就業規則に基づいて行われたものだ、ということです。
ちなみにこの原告社員は昭和52年4月に入社し、勤続30年目の平成19年1月頃技術部の部長代理に昇格しています。
この懲戒処分が有効かどうかが争われたわけですが、結論から言えば、全部認められずに、給与減額は全部、もとの58万円に戻されたというのがこの判決です。
ではこの8回の減額の中身をみていきましょう。
この減給は懲戒処分として行われました。能力不足とか、目標を達成できなかったからということで給料が減額されました。裁判ではその妥当性が争われましたが、この判決では会社が全面的に負けて、減給は全期間にわたって無効と判断されて、さかのぼって月給58万円との差額を払えと命じています。
ではこの8回の給与減額はどのようなものだったのかみていきましょう。
・1回目:H21年5月 58万円から56万3千円になった。
・2回目:H21年7月 56.3万円から54万7千円
・3回目:H21年9月 54.7万円から54万2千円
・4回目:H21年12月 54.2万円から48万8千円
・5回目:H22年6月 48.8万円から45万8千円
・6回目:H23年3月 45.8万円から43万円
・7回目:H24年2月 43万円から38万円
・8回目:H24年6月 38万円から35万円
被告会社は、これら8回の減給処分の理由は、原告社員が技術力が低く、能力不足であり、顧客との交渉力にも問題があり、改善の意欲がみられず作業の遅延があったからだと主張しています。
このブログを読んでくださっているみなさん、能力不足が懲戒処分(つまり罰)の理由になると思いますか?
この判決文にはこの会社の就業規則に規定されている懲戒規程が掲載されています。それを読んでも、能力不足が懲戒処分の対象となるとは書かれていません。この規定もそうですが、通常は、~したときとなっていて、ある特定の行為を行った時にそれが懲戒処分の対象となると決めています。それが普通です。
ついでにこの会社の懲戒処分にはどのような種類があるのかみておきましょう。
制裁(筆者注:懲戒処分のこと)は、その情状により、けん責(筆者注:厳重注意や叱るといった意味)、減給、出勤停止、懲戒解雇を行うが、上記減給については、1回の減給の額が上記従業員の平均賃金の1日分の半額、総額が上記従業員の1賃金支払期における賃金総額の10分の1の範囲内で行う。と決められています。減給の幅は労基法91条の条文通りですから法律違反はありません。
ところで、1~8回目の減給は、それぞれ1回の懲戒処分なのですから、就業規則の規定により、どんなに高くても平均賃金の1日分の半額までのはずです。平均賃金とは過去3ヵ月間に払われた給料総額を3ヵ月の総日数で割った、1日あたりの平均額ですから、この社員について言えばだ、いたい12,000円~18,000円の範囲内に収まっていなければならないはずです。でも実際には4回目以降は2万円以上も減額処分が行われています。
よしんば1ヵ月に何回もの懲戒処分がされてその合計額が各回の減給の金額となると言うことだったとしても、7回目は43万円から38万円に引き下げられていてその差は5万円ですから、43万円の10%を超えていますね。この会社は自分で作った就業規則を自分でやぶっていることになりますね。このようなことが起きると社員は就業規則(または職場のルール)なんかアテにできないと思うようになります。
そもそも、懲戒処分としての減給は毎月行われても良いのでしょうか?
懲戒処分、つまり罰は1つの事由に対して1回しかできません。同じ過ちに対して何回も罰を加えられたらたまりません。たとえば、技術力不足を理由とする減給処分もそれができたとしても1回限りのはずですが、この会社はその後、改善がみられないと言って何度も同じ理由で減給を繰り返してきたわけです。こんな事はできるはずがありません。
長くなってしまったので、裁判所が、この給与減額処分をどう判断したのかは次回のブログに書きます。