懲戒解雇と解雇予告手当

コラム — タグ: — 2015年7月25日2:54 PM

「ちょっと訊きたいんですが、懲戒解雇の時は解雇予告手当ては出ないんでしょうか?」

電話口の向こうで、男性がそんな質問をしてきた。

私の答えはこうだった。

「懲戒解雇であろうと、何であろうと、解雇の理由に関係なく、労働基準監督署から解雇予告手当て除外認定されていない限り、会社は解雇予告手当ては払わなくてはならない決まりがあります。どうされたのですか?」

「解雇予告手当てはもらっていないし、懲戒の理由も納得できない。もう今さら、会社に戻りたくもないけど、このまま黙ってクビにされるのも納得いかない。
でもどこへ訴えたら良いかもわからないので、相談に乗ってもらえますか?」

「いつでもどうぞ。いらっしゃるときは、給与明細など、会社からもらった書類があれば全部持ってきて下さい。もしかしたら他にも法律違反が見つかるかもしれませんから。」

明日の午前中に会いたいと言って電話は切れた。そして、約束どおり翌朝、その男性はやって来た。

「昨日電話した川崎と言います。よろしくお願いします。給与明細と求人票持ってきました。」

「おいでいただきありがとうございます。書類拝見します。今年1月からこの会社にお勤めだったのですか?懲戒解雇されたとうかがいましたが?」

「そうなんです。この求人票見て、正社員募集していたので、応募したら、すぐ来てくれということだったので、面接した日の翌日から仕事しました。1月15日だったと思います。
それが、先週金曜日に、社長に呼ばれて、いきなり『今日でクビだ。会社のものを盗むなんて懲戒解雇だ。』と言われたんだけど、俺には、身に覚えのないことなので、社長に、『盗んでなんかいないし、誰がそんなこと告げ口したのか?』と聞いたら、
『盗もうが盗まいがクビだ。明日からもう来なくていい。』と言われた。」

「うーん、ちょっとやり方がひどいなァ」、とつぶやくと、
「そうでしょ!解雇予告手当を払わないのは法律違反でしょ。それに理由も言わないで懲戒解雇だなんて、パワハラだ!」と火がついたように怒りだしてしまいました。会社では他にもいろいろとあったようで、それまで我慢していた、感情が抑えられなくなったのでしょう。一気に話し始めました。

こうなったら、もう聞くしかありません。「そうですか、そんなことがあったんですね?それは大変でしたね」と相づちを打ちながらお話しを聞いていました。

実はこういう時間はとても大事です。
これからこの方と一緒にトラブルを解決して行く上で、相互に信頼関係を築かなければならないので、私が信頼できる奴だと思っていただくには、お話しを最後まで黙って聞くことと、相手を否定しないことがまずやるべきことです。相手の方が私を味方だと思っていただけたら、後になって、聞きにくいことでも、結構ストレートに聞くことができます。

この方の時は、2度目の打ち合わせのときに、私がどうしても気になっていたこと、「本当に盗まなかったんですか?」 と尋ねました。普通なら「オレを信用しないのか!?」と怒り出しそうですが、幸い怒られずに、「社長がオレのことを意地悪く見れば、盗んだと見られても仕方がないかもしれない。」と、冷静に答えてくれました。

私はよく、私の第一印象は、取っ付きにくいと言われるので、最初は、傾聴に徹して、相手の方に、安心して付き合えるやつだとの印象を持っていただくことを一番に考えています。

川崎さんは一通り話すと、気分が晴れたのか、気持ちに少し余裕が出てきたようです。

「これからのことなんですけど、どうすれば一番早く解決できますか?私も早く次の仕事を見つけたいので、払われるべきものを払ってもらって、早くけりを付けたい。 あんまりお金もないので裁判は困るけど、会社が誠意を見せないようなら裁判も辞さない覚悟だ。」と、冷静になってきました。

そこで、私は次のように説明しました。

「まず、残業代不払いと解雇予告手当てを払わないのは明らかな労働基準法違反だから、労働基準監督署に申告することから始めましょう。申告することについては、労基署に対しては、費用はかからないです。
労基署が、会社を指導してくれて、会社が残業代と解雇予告手当てを払ってくれば、それで解決です。
もし解雇が不当だと思い、会社に取り消しを要求したり、言われのない懲戒解雇されたことに対して精神的苦痛を受けたことに対する慰謝料請求、残業代不払いに対する遅延損害金を請求したければ、あっせんや労働審判など民事で解決を図る方法もありますよ。」

「いや、まずは、会社が労働基準監督署に調べられた方がいいような気がする。社長の性格では、いつも強がりを言っているが、会社に警察や労基署の人が調査に来ることを一番いやがっているので、かなり効き目がありそうな気がする。それでダメなら次の手を取ればいい。」

川崎さんは、私にアドバイスを頼みたいと言って下さったので、お引き受けすることになりました。 と、いうことで、さっそく監督署への申告書の作成にとりかかります。

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