労災保険の基礎知識

世の中で一般的に、労災保険と呼ばれているこの保険制度は、正式名称を「労働者災害補償保険」といいます。

言い換えれば、会社に勤めている社員(労働者)が、病気やケガをして(災害にあって)、経済的損失を被ったときに、それを、保険の仕組みを使って補償しましょう、という制度だということです。(ただし、慰謝料などは払ってくれません。)

ただし、あくまでも、保険の仕組みの中で保護されるものなので、保険に入っていない人(つまり会社に雇用されていない人)は、対象となりません。
例えば、社長やその他重役、自営業者(個人請負で働いている方を含みます)、失業中の方などは、労災保険の仕組みから外れています。

また、合法的に勤務先が、労災保険に加入していない場合も、労災の補償は受けられません。
例としては、国の直轄事業、官公庁の事業で働く人、船員保険に加入している人等が当てはまります。
また、常時5人未満の労働者を使用する個人経営の農林水産業の事業は、労災保険に加入することが任意とされていますから、加入していないことがあります。

逆に言えば、世の中のほとんどの民間の会社は労災保険に、強制的に加入を義務づけられています。(労災の適用事業場といいます。)
強制加入の会社が、うっかりして労災保険に未加入だったとしても、社員は労災補償を受けることができます。
(もちろん、会社は労災保険料を、さかのぼって払って、加入しなければなりません。)

労災保険の適用事業場(つまり会社)で働く人は、正社員でも、アルバイトでも、会社に雇用されたときから、自動的に、全員加入しています。
それなので、健康保健や雇用保険のように、入退社の届出をしたり、保険証が発行されたりということはありません。

なお、労災も保険ですから、保険料を国に払いますが、これは全額、会社が払うことになっていますから、
社員の給料から保険料が引かれることはありません。

こうしてみてくると、労災保険というのは、社員にとって、万一ケガや病気をしたときには、安心できる保険制度だということができます。

実は、会社にも、メリットがあります。

会社というのは、社員を雇って、「この場所で、この機材を使って、働きなさい」と命令して、社員を働かせる訳なので、
働く場所の安全性、環境の衛生確保、機材(机や椅子も含みます)の安全性、社員の健康確保への配慮などについて、全面的に責任を負わなければなりません。もし、社員が職場で、ケガをしたら、治療費その他の費用は、全額会社が払わなければならないのです。
労災事故については、健康保健を使って、治療や投薬を受けてはいけないという決まりがありますから、会社が全責任を負うということになってしまいます。

これでは、会社も負担が大変なので、国が、労災保険という仕組みを作り、会社が保険料を払って労災保険に加入すれば、社員のケガや病気に関連する費用は保険から払いましょうということになっているのです。

ここで注意していただきたいのは、労災補償が受けられる病気やケガは、業務災害と通勤災害の2種類に関するものだけが対象で、社員の個人的な理由によるケガや病気は対象にならないということです。この場合は健康保健を使います。

ではまず、業務災害について、どういう場合を想定しているのか、見ていきましょう、
1. 仕事をしているときに、ケガをした、病気になった (「業務遂行性」といいます)

2. 仕事が原因でケガをした、病気になった (「業務起因性」といいます) の2つが、同時にそろっていることが基本的な条件となります。ですから、昼休みに、社内で転んでケガをしても、労災の事故とはなりません。

また、通勤災害というのは、 1. 居住地と就業場所との合理的な往復の途上で、ケガをした、病気になった
2. 通勤経路を外れたり、中断する前に起きた通勤によるケガや病であること の2つを満たすことが必要です。通勤災害は原則として、通勤の途中で、寄り道をしたら、そこから先は適用されないということです。

このコラムでは、業務災害について説明していくことにしますが、労災から受けられる補償は、業務災害と通勤災害で違いはありません。