労災と解雇-2

コラム,解雇 — 2015年6月25日7:16 PM

会社の労基法19条違反が明確なので、労働基準監督署に申告して、解雇が無効であることを確認してもらうという方法があります。町田さんには治療とリハビリに専念してもらい1日も早く職場復帰をしていただくというのが、ベストな問題解決と思われました。

ところが、事情が少し違うようです。

町田さんはこの会社に、もう3年近く勤めているの ですが、ワンマン社長で、他の経営者も、皆社長の家族で、互いにいがみ合い、社員が振り回されて、いつも一番迷惑を被っている(そして損している)のが社 員なのだそうです。社員数は8人だそうですが、入れ替わりが激しく、勤続2年以上は町田さんだけで、自分の仕事をこなすのでさえ大変なのに、新人の面倒も 全部自分が見なければいけないし、あげくに、社長と喧嘩して、すぐ辞めてしまうので、自分もほとほといやになったとのことです。

それに、自分は、けがが治っても、果たして会社に戻れるのかどうかもわからない。辞めろと言うなら辞めてもいいが、黙って解雇されるつもりはない。残業代も一切払ってもらってないので、請求したいとのことです。

う~ん、ちょっと困った。法律では解雇はできないから、辞めるとすれば、自己都合退職か合意退職しかない。そうすると監督署マターではなくなる。会社は解 雇すると言っているのだから、こちらから辞めたいと持ちかけたら、自己都合退職で処理されて一巻の終わり。どのような方法があるか少し時間を取って考えよ う、ということにしました。

町田さんは、これから病院へ行くといって、帰られました。次回おいでになるときは、給与明細書や雇用通知書、就業規則など手元にある資料を全部持ってきて いただくことにしました。町田さん曰く「就業規則なんて見たことも聞いたこともない。うちの会社にあることすら知らなかった。」そうです。会社の周知義務 は果たされていなかったようですね。

翌日、町田さんから電話がありました。昨日病院の帰りに時間があったので、ハローワークに行ったそうです。求人検索をしていたとき、もしやと思って自分の 会社を探したら、求人が出ているのを見つけた。条件は全く自分の仕事そのまま。給料も同じ。自分は労災事故でけがの治療をしている最中なのに、会社は自分 をクビにして、代わりの社員を雇おうとしている。こんなやり方は許せない。今から事務所に行ってもよいか?とのことでした。怒る気持ちもわかります。

町田さん、事務所に来るなり、その求人票を広げて、「けがが治っても、自分が会社に戻れる可能性はもう無くなったから、解雇無効を訴えたい。会社は絶対 に、『戻ってこい』とは言わないはず。でも法律違反をしているのだし、会社は絶対的に不利だから、こうなったら裁判でも何でもやってやる!」と言いまし た。怒っている割にはずいぶん論理的だし、作戦的にも間違っていないな~と思いつつ、では、どう進めたらよいかと考えました。

「それでは、とりあえず会社宛に内容証明郵便で、解雇は無効であることを主張しましょう。」と私。

「それがいい、どうせ、戻ってこいとは言わないだろうから、法律違反していることを教えてやろう。」と町田さん。

それで、両者で内容証明郵便の原稿を作成しました。

要旨は、

1.業務災害による治療期間中であるので、解雇はできないこと。

2.過去2年間の未払い残業代として、金○○万円を支払うこと

3.労災保険の休業補償給付・休業特別支給金支給申請書の作成、所轄労働基準監督署へ提出すること

です。

今回の事故による休業損害は任意保険から払われていますので、労災からは、同一目的の休業補償は出ないのですが、特別支給金はもらうことができるので、申請しておきます。

これを清書して、会社宛に発送したのは翌日でした。

会社からはすぐに、町田さん宛に電話で連絡がありました。なんと驚くべき事に、 『労 災保険を使っていないのだから、これは労災事故ではない。だから解雇してもよいはずである。法律通り30日後の日を解雇日としているから、何も問題ない。 うちは日給制で給料払っているから残業代は発生しないことになっているから、もう払うものは何もない。みんなそうやっているし、文句を言ってきたのはおま えだけだ。もう代わりの者を雇ってしまったので、今さら解雇無効だと言って戻ってきても、やってもらう仕事がない。だいたい、内容証明なんか送ってきて、 いったい何のつもりか?裁判でも何でもやるなら受けて立つぞ。』と社長が言ったそうです。

まるで宣戦布告ですね。でも、労災から給付をもらっていないからこれは労災事故ではない、とは誰が言ったのでしょうか?

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