退職後の懲戒解雇

Q. 私は、一身上の都合で会社を退職しました。会社の規定通りに退職日の1ヵ月前に退職届を出し、退職金をもらって円満退職したつもりでいました。ところが、退職して1ヵ月ほどしたら、会社から、懲戒解雇に切り替えたので、退職金を返せといってきました。懲戒解雇にされるようなことはした覚えがなく寝耳に水の出来事です。退職金は返さなくてはいけないのでしょうか?

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A.退職日を過ぎてから会社が懲戒解雇にするといっても、もう退職してしまっているのですから、この懲戒解雇は無効であるといえます。退職金もすでに払われているので返還する義務はありません。

これに似たようなことは以前から裁判で争われていて、文献に取り上げられている裁判例ではすべて労働者側が勝っています。つまり、懲戒解雇も退職金の返還請求も無効で、ほぼこうした判決で決着が付いている状態です。

たとえば、退職日以降に出された懲戒解雇が有効かどうかについては、平成14年9月3日に東京地裁で判決が出た、エスエイピージャパン事件というがあります。この裁判は、即日退職の退職届を出した社員と、年休残消化のための休暇届と退職届を一緒に出した社員に対して、会社は退職を認めず、後から懲戒解雇処分にしたというケースです。この場合でも裁判所は、会社には退職届を足した日から14日経つと退職できるという就業規則の規定を重視して、この規定通りに、退職届から14日経った日に退職が成立しているから、その日を過ぎて出された懲戒解雇は、たとえ懲戒解雇の理由があっても無効であると言っています。

補足説明ですが、この退職届を出して14日経ったら退職になるという決まりは、民法の規定に基づいています(627条1項)。雇用契約期間が決まっていない労働契約(正社員など)では、会社か社員のどちらからでもいつでも契約の解除(つまり辞めること)の申し込みができるとなっていて、申し入れをした日から2週間を経過することによって終了する,となっています。つまり、会社がいろいろと理由を付けて辞めさせてくれなくても、退職届を人事権のある人事部長などに渡したら(あるいは送りつければ)、14日経ったら、退職になります。就業規則にこの規定がなくても構いません。

会社は、労働基準法によってもっと厳しい規制(解雇する場合は30日以上前の通知か解雇予告手当の支払い)がありますし、解雇理由についても労働法契約法によって規制されていますから、解雇通告して14日経ったからといって退職が確定するわけではありません。

もう一つの裁判、東京ゼネラル(退職金)事件では、すでに退職した社員に対して、後から懲戒解雇しても無効だから、会社は、この懲戒解雇を理由として退職金を払わないという権利がない。結果として判決で、会社に対して退職した社員に退職金を払うように命じました。

よくある、似たようなケースでは、ライバル会社に転職したことが前の会社にわかってしまい、懲戒解雇に切り替えてくるといったケースです。退職者が、どの会社に勤めようが自由(憲法22条の職業選択の自由)ですから、懲戒されるいわれは全くありませんが、退職後の懲戒解雇自体も無効です。