未払い残業代の請求には証拠が必要

コラム — タグ: — 2016年9月4日4:24 PM
平成28年3月に東京地裁で出た判決から、未払い残業代の請求に必要な証拠について考えてみます。

 この裁判は、そのほかにも賃金減額の有効性を争ったり、パワハラ被害について損害賠償したりと、日本で頻繁に起きている職場のトラブルが何種類も出てきます。
 このうち、賃金減額については別のブログで取り上げてみようと思います。
 この裁判の判決文は最高裁判所のサイトには載っていないのですが、私は神奈川県立図書館で利用できる、第一法規法情報総合データベース(D-1Law)で見つけて読みました。この判例検索システムは、よく利用させてもらっています。

 この裁判で、原告(退職した労働者)は、残業や深夜労働したのに、その分の賃金(割り増しを含む)が払われていないといっています。よくあるサービス残業ですね。請求できる期間は時効の関係で、さかのぼれるのは給料日から2年経過する前までの未払い賃金です。たとえば、月末が給料日の会社に勤めていて、平成28年9月4日にサービス残業した分の未払い残業代を会社に請求するとしたら、さかのぼって請求できるのは平成26年8月31日の給料日分までの未払い残業代までということです。

 ところで、このブログを読んでくださっているみなさん、会社に未払いの残業代を払えという訴えを起こすときに、残業や深夜労働した時間数をどうやって証明しますか?
特に、労働審判や裁判の場合には、未払い残業代を払えという請求をする側(原告とか申立人)が証拠を出して、残業や深夜労働をしたということを証明しなければなりません。そうしないと相手(被告とか被申立人)は、この社員は残業した記録がないから残業代は払う義務がないと反論してきます。

 では、どのような証拠書類が有効なのでしょうか?

  • 会社のタイムカードやその他の出退勤記録をコピーしたもので証明する。
    これが一番確実な方法ですね。いわゆる客観的な証拠というやつです。

    でも、もし勤めている会社ではタイムカードが使われていなかったら、あるいは会社が処分してしまったと言い張ったら、ほかにどのような方法がありますか?

  • 会社で使っているパソコンのログファイル(電源のOn/offの記録)、かえるコールやメールの記録が載っている通話料明細書、家族が帰宅時刻をメモしたカレンダー、自分で退社時刻をメモした手帳などで証明する。
    これも有効な証明手段です。 が、毎日記録を付けていればもちろん客観的証拠として認められやすいですが、飛び飛びだったり、データ量が少なかったり、そもそも請求している期間のデータではなかったりすれば、証拠として取り上げてもらえないということも十分ありえます。

     この裁判でも、原告は未払い残業代が発生していた期間の客観的な勤務時間記録がなかなか出せずに、苦労していたようです。
    たとえば、帰るコールの通信料明細書は、違う時期のものしかなかったようで、そこから推測して、毎日の退社時刻が平均的に8時2分過ぎだったから、包括的に毎日2時間47分の残業をしていたと主張しています。(この会社は5時15分が終業時刻でした。)
    さらに、パソコンを使って作成したエクセルなどのファイルを保存した時刻を示して、この時刻までは会社にいた証拠となると主張しました。

     証拠書類の中身を見ていないので、実際どのようなデータが示されたのかはわからないのですが、裁判所は、「原告の上記退勤時刻を裏付けるに足りる的確な客観的証拠はない。」とか「被告(筆者注:会社)に少なくとも午後8時までは勤務していたといった事実関係が裏付けられているということは困難である」などといって、残業していた事実を認定できないと判断しています。つまり未払い残業代の請求はできないといわれてしまったのです。

     このように書くと、神も仏もない!と言いたくなりますが、判決ではわずかな救いとして(とは言っても残業代を払ってもらえることにはならないですが)、「原告は、上記期間中、被告において残業したことがあったこと、被告はタイムカード等による原告の勤怠管理を行っていなかったことは認められる。」といっていますから、何時間残業したかを証明する証拠が足りないから、未払い残業代を算出できないといっているわけです。何とも残念なことですね。

     この原告には気の毒ですが、我々はここから学ぶ事ができます。
     サービス残業をさせられていると思ったら、まず、毎日、退社時刻を記録しておくことです。パソコンのlogファイルがあるからいいや、ではなく、ローテクですが、手帳に書いておくことです。次に大事なものは給与明細書です。残業代が払われていないことの証明や残業代単価を計算するための大事な証拠になります。さしあたってこの2つをいつも用意しておきましょう。