あっせんに持ち込まれているトラブル

コラム — タグ: — 2015年9月25日4:03 PM

あっせんは、トラブルの当事者である会社と社員の間に第三者(あっせん委員)が入って、和解の仲介をしてくれる制度ですが、実際にどんな案件が持ち込まれているのでしょうか?
平成26年度に各都道府県にある労働局に申請されたあっせんの件数は、5,000件あまりですが、そのうち東京労働局が取り扱った件数が1,073件とダントツに多いので、その内容を見てみましょう。

あっせん

あっせんに持ち込まれた件数は少ないと思われるかもしれませんが、労働相談コーナー(労基署に併設されていることが多い)での相談件数は103万件を超えています。詳細は厚生労働省のホームページで公表していますのでご覧いただきたいですが、この103万件の内、民事上の個別労働紛争相談件数という区分があって、これが23.8万件となっています。
この「民事上の~」は何かというと、労働基準法上では違反とならない事案ということです。こうした民事上のトラブルがあっせんでの和解に適しているということになります。トラブルの類型は解雇やパワハラなどですが詳細は以下でご説明します。

逆に言うと、労働基準法違反となるケースの代表例は、サービス残業(賃金未払い)や最低賃金違反などの賃金のトラブル、即時解雇なのに解雇予告手当を払わないケースなどが考えられます。労働基準法違反は、労働基準監督署が扱う違法行為なので、そちらに申告してくださいということなのです。なかでも、労働局のあっせんではサービス残業は扱わないといわれているようですが、そのようなことはありません。あっせんに持ち込める事案です。

それで、東京労働局で一番多かったあっせん事案は、いじめ・嫌がらせに分類されるトラブルです。パワハラと言い換えてもいいと思いますが、H25年度の288件からH26年度は375件と100件近くも増えています。なお、これにはセクハラやマタハラなどは含まれていません。こちらの問題は、労働局の中にある雇用均等室というところが扱っていますので、別のブログでご説明します。

あっせんに持ち込まれたトラブルの2番目は265件の解雇です。解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇が含まれています。解雇というのは何もペナルティーとしての解雇だけではなく、支店や工場の閉鎖に伴う解雇もあります。H25年度が350件でしたから85件(24%)も減ったことになります。
その代わりということでもないかとは思いますが、退職勧奨が42件増えて、146件となっています。おそらく執拗な退職勧奨が問題となったケースだと思います。本人が辞めたくないと言っているのにもかかわらず何回も勧奨したり、辞めますと言うまで部屋に閉じ込めたり、パワハラになるような暴言を浴びせたりといったひどい行為が絡んでいると思います。退職勧奨自体は違法行為ではありませんが、退職強要に近いものや執拗な勧奨、当然ながら人格否定につながるようなパワハラは、違法行為です。

4番目は雇い止め(138件)です。前年から3件増えていますが横ばいといっていいでしょう。代表例としては、契約期間があっても、いままでほぼ自動更新してきたのに、いきなり、「はい、今日で契約期間満了です。明日からもう来なくていいです。」みたいなことをされるケースです。通常、会社は、「これはあくまで契約期間の満了による退職であって、解雇ではない」と言い張りますが、労働契約法の19条という規定があって、反復更新された期間契約や契約更新への期待が合理的であるような場合には雇い止めは無効とされるとなっています(つまり契約が更新されることになります)。

それよりも何よりも、いきなり契約満了だから今日で辞めてくれと言われたら、ほとんどの人は、即、生活に困ってしまうので、会社の横暴な対応に待ったをかける法律があるということを覚えておいてください。

目を引くのは、労働条件の切り下げが、前年から119件も減って、68件となっていることです。人手不足が影響しているのでしょうか?

サービス残業代の請求が項目として出てきていませんが、未払い賃金請求として労働局にあっせん申請すると、労働基準監督署に申し立ててくださいと言われてしまうことが多いので、実際にあっせんに持ち込まれる件数は少ないのかと思います。その他の134件に含まれてしまっているかもしれません。でも切り口を変えればあっせん申し立てできるので、困っていらっしゃる方はご相談ください。

民間ADRといわれるあっせん機関(各都道府県の社労士会労働紛争解決センターなど)では未払い賃金請求を受け付けてくれる所もありますので、こちらに持ち込んでも良いかもしれません。特定社労士であれば、民間ADRのあっせん代理人も受任できます。